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ガチマッチのイカたちへ 〜気づき、そして未来へ〜

Splathon Advent Calendar 2018 20th Dec

 

 「ガチマッチのイカたちへ」〜気づき、そして未来へ〜

 

 



「お前、重いんだよ」


顔をそむけてはいたが、眉根は潜めている。ずっと表現することを諦めた感情が、ひそかに、しかしついにその眉根の皺から滲み出た。そんな表情でガチマッチが言っている「重い」の言葉の意味が、4号にはわからなかった。

 

昼下がり。秋なる気配は微塵もない、まだまだ湿った8月の終わり。ロビーの空調は効き目がなく、じっとりと、どこにも行けない苦しさを含んだ熱気が室内にこもっていた。ステージが変わった直後。最後の10戦は負け続けていた。悔しさなのか、執着なのかわからない、黒焦げのすみくずのような胸の内が重たかった。ガチマッチに「重い」と言われる直前、4号はガチマにそれを吐露しただけのつもりだった。


なぜ?
こんなにもガチパワーを求めているのに
なぜその気持ちがわかってもらえないのか
なぜパワーが得られないのか
なぜ味方は溶けて行くのか
なぜ味方は塗らないのか
なぜ味方はタイミング悪くデスをするのか
なぜそんな味方と一緒にプレイをさせるのか
マッチングは壊れてるんじゃないのか
そんなマッチングをさせるN社が悪いんじゃないのか

 

ただ苦しい気持ちをわかって、受け止め、マッチングを改善してほしかった。ただ良い味方を割り当てて欲しかった。それだけのつもりだった。だって、そんなの、マッチングが悪いガチマのせいじゃないか。私の気持ちだって正当化されていいはずだし、口に出していいはずじゃないか。

 

いや、改善は期待していなかった。ただいつものように聞き流されるだけ、だからこちらも、気軽に不満を口にしていた。
それだけに、先ほどガチマッチの口から発せられた言葉は、面食らった、とも、ショック、とも言い難い、がつんと頰を殴られたような鈍い衝撃のあるものだった。

 

ガチマッチは続けて言った。

 

「ガチパワーのことなんだとおもってんの?仲間のことはなんだと思ってんの?俺が提供するものに不満があるなら、俺となんか会わなきゃいいだろ」
耳に届いても、その言葉は頭には届かなかった。ぼんやりと重たく、ねっとりとした、未消化の何かだけが胸にしとしとと渦巻いた。重たく鋭利な言葉だったはずなのに、涙も出なかった。のどが妙な乾きで張り付いて言葉が出ない。

 


声を出せない代わりに、4号はガチマッチと過ごした日々を思い出していた。

 

 

 

夏が盛り切る前の、蒸し暑い日であった。
センセーショナルなSplatoon2の発売とともに、新しいガチマッチがハイカラスクエアに現れた。

みんなこぞってガチマに群がった。無印の頃のカンスト勢、有名配信者、プロゲーマー、たくさんのイカたちが参戦し、ウデマエアップを競い合った。4号もたくさん潜った。

4号自身は最初はそこまでうまいプレイヤーではなかった。 無印はやっていたがカンストはできず、せいぜいSどまりであった。

 

「スプラ2ではウデマエをあげたい」

 

漠然とした目標と、方針のないプレイ。

 

ガチマッチでの勝利は、毎日とても遠かった。2勝すれば3度負け、5勝すれば10負けた。穴という穴から血を出しながらウデマエをあげ、S+1に到達したときは「ハイカラスクエアで生きる人権を得られた...」と唇をかみしめた。

 

そこからはまた苦しみの連続だった。

 

S+10に到達しない。どうしてもS+0や1でランクがさがってしまう。S+5にあがっても、ゲージが割れてまたS+0に逆戻り。Xが導入されたあとは、よりジリ貧感が高くなった。S+1でなんども負ける。S+5、折り返し地点からまた割れる。どんなにキルをしても、どんなに塗っても、どんなに試し打ちでエイム力をあげても、Xにあがれない。負ける。ゲージが割れた日は何時間も泣いた。泣きながらロビーヘ向かった。


ある日、突然飛び級した。2段階分ほど、ほぼ無敗でランクを上げた結果だった。
飛び上がって喜び、嬉しさで泣いた。いきなりXになった。

 

僥倖に近い報酬だった。

 

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ロビーからどうやって家に戻ったのかはあまりよく覚えていない。
あれを超えた今、私は強くなったと思っていたのに...

 

Xパワーが2300以上で安定しない。4号が苦しんでいたのはそれだった。


「重たい」と言われた後は、ガチマと鉢合わせる場所にはいかなかった。ロビーで少し見かけたかもしれないが、目をそらし、彼の視界に入らないようにしていた。いや、自分だけでなく、お互いそうだったのかもしれない。


離れたい。ガチパワーのことは考えたくない。

 

ガチマッチと関わらなくなったら何をするか。それはとても簡単だった。ガチマッチ以外のたくさんのマッチに潜ればよかった。
リグマ、プラベを毎日当たり前のように行き来し、ときどきシャケをしばき、対抗戦もたくさんやった。対抗戦こちらオールXエリおまロスト22時〜
4号にとって、仲間と連携できるそれらはとても開放的だった。

 

みんなでリーグパワーをもらえる
みんな溶けない
みんな塗ってくれる
みんなタイミングよくキルをしてくれる
そういう味方とプレイできる
だから、マッチングの崩壊を感じない
N社が悪いとも思わない

 


それは、ストレスから開放された軽やかな日々だった。

 


ガチマと関わらなくなって3ヶ月が過ぎようとした頃、ハイカラスクエアのビジョンに、甲子園優勝者が写っていた。インタビューをうけている。優勝者の知り合いなのか、広場で配信を見ている一人が泣いていた。

まぶしかった。


フイ、となんでもない風に目を背けるのは簡単で、顔の方向を変えると、ロビーから外に出て来た2枚のイカボーイとタコガールの声が耳に入って来た。

「またガチマまけた。まあでもこんな日もあるか、はあ〜おちこむ」
タコガールはそうやって気分を切り替えようとしていたが、すかさずイカボーイが言った。


「そんなの勝つマインドじゃないだろ。負けて振り返りしないでおちこむ時間つくるようなら勝とうとか思うんじゃねーよ」


タコガールは泣きそうだったので、完全にイカボーイのイキり発言だったのだが、4号はざくりと背中を切られたように錯覚した。

 


自分に言われているようだった。

 

 

 

4号は、なぜ自分がガチパワーをあれほど求めていたのか、正直頭も心にもしっくりきていなかった。ただ欲しいという渇望のような。それが何かを証明してくれるような、自分の強さを保証してくれるような。
少し考えてみて、「その言葉が正しいのかわからないけど....」安心のような、証明のようなものが欲しいような気がする、とひとりごちる。「負けるのは自分のせいじゃない、」部屋のガチパワー平均よりも自分のガチパワーが高ければ、負け筋を作ったのは自分ではないと数字で証明できる。自分が弱いんじゃない、自分は悪くないでもそれは何のため?何と競っている?友達?ライバル?むかつくやつ?それはあのイキりイカボーイの言う「負けて振り返りをしていない」ということになるのだろうか?

わからない

 

 


そんなようなことを、酒で酩酊し、やぶれかぶれになった気持ちを隠すことなく4号は呟いた。対抗戦帰り、一人で入った小料理屋*1。今日の対抗戦は勝ったけど、なんだか虚しかった。女将は「はいはい、そうね、そろそろやわらぎでも飲む?」と受け止め、流してくれている。ガチマッチにだって、こうやって対応してほしかったのだ、と、4号の頭のすみにさっとそんなことが姿を表し、消した。心臓の奥がちくりとする。

少しの沈黙の後、カウンターの角の席から声が聞こえた。

「ガチマは練習。個力をあげるための場所ですよ」
すでに深酒と言って良い状態になっていた4号は、そういったイカの顔は見えなかった。
そのイカの左胸には「北陸」の文字があったのだが、4号の目には滲んで写っていたので、正しく認識していたが定かではない。
女将も言った。
「もっと気軽にガチマにもぐって良いのよ」

 

 

 

ロビーの前はからりとした風が吹いていた。街の喧騒と入り口に響き渡る音楽で自分の足音は聞こえなかった。昼下がり。まだピークタイムではないロビーの、すこしがらんとした空間の中で、4号は3か月ぶりにその声をきいた。


「ひさしぶり」

今日はやるのか?そう続けて言葉をかけられたが、4号はちらとそちらを見ただけで答えることはなく、そのままマッチを開始した。

 


3時間潜り続けた。

 

 

楽しい。
勝っても負けても楽しい。

 

 

ガチパワーは気にならなかった
味方は溶けたし、溶けないときもあった
味方は塗らなかったし、塗る時もあった
味方はタイミング悪くデスをしたし、いいキルをとるときもあった
マッチングは壊れていても気にならなかった
そういうものだとおもった
それよりも、自分が何ができて、何ができていなかったか
それだけに集中することができた


感謝

 

 

だれかとプレイができること、スプラをできることそのものへの感謝が10000回胸を交錯した。

 

 

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「楽しそうにプレイしてたな」
帰りのロビーで、声をかけられた。

 


しつこいな、と4号は顔に出したがガチマは構わず続けた。
「俺のこと、少しはわかってくれたみたいだな」

 


うぜえ

 

 

そう率直に思った。塩対応なので、連絡を取らず放置していたらいきなり絡み始めてくる自分勝手な彼氏のようだった(本当は放置した時点でもう元彼扱いなのだが)

 


そうか


4号はふと顔を遠くをみた。

 

 

うまくいかない、勝てない、伸びないというのは、彼氏との倦怠期みたいなものなんだ。
であれば、今までのものをを切り捨てて、新しい男を見つけるのは自分のQoLを高い状態にキープするための基礎行動。
同じことをすれば、スプラのQoLは高まるんじゃないか。そして、きっとその「今までの行動パターンを切り捨てる」というのが、「強くなる」ということなんじゃないだろうか。そう、たとえば「味方のせいにする」とか、「プレイ中に謎に溶けた味方に文句を言う」とか、「マッチングのせいにする」とか

 


「ガチマは恋愛でいう結婚相手じゃなかったんだ。わたしが集中すべきは、対抗戦やプラベだったんだ」
これが強くなるということなのか。

 


味方のために強くなりたい。言葉にはならなかったが、それに近い気持ちが、じんわりと心臓の奥の方からひろがってくるのを4号は感じていた。

 

 

「対抗戦、したいな」
急に空が明るくなったような気がした。


足取りは、ロビーから、ニューイヤーの準備に浮かれたハイカラスクエアのメインストリートに向かっていた。もう4号にはガチマの声は届かず、15時のニュースのアナウンスにかき消されていった。

 

 

次回「ルールブキトップはとつぜんに」byぼーりー

 

 

 

 

 

 

 

んなわけあるかああああああああ!!!!
パワー吸わせろやぁあああああああああ!!!!

*1:小料理 いかずち