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いつかの面接と、もらった言葉たちの話

※くそエモい話です。

 

 

【後編】転職活動で気づいた、採用が下手な会社と上手な会社 - ジンジニアニッキ!

を読んで、昔のことを思い出したので書く。

 

 

1社目を辞めるまでのサマリー

前に書いた記事にあるとおり、私は何度か転職している。

1社目はとある領域に特化した、中小の派遣サービス企業だった。結構アレな会社で、簡単にいえば新卒使い捨ての会社だった(今はどうなってるか知らない)。
OJTは名ばかり、若手の育成フローは整っていない、営業会社なのにKPI設定も分析もせず、パワハラ部長が新卒の家に押しかけて性的交渉を要求する、というような事件も起こるような会社で、簡単に言うと毎日大変だった。
(しかしこんな会社は世の中には当たり前のようにあると思うので、日本はやばい)


私は、新卒研修で発言が目立ってしまったせいか(私にその自覚はなく普通に過ごしてただけなのだけど)、配属当初からチームの人に腫れ物扱いされていた。皆、私をどのように扱ったら良いのか解らなかったんだと思うが、非常に威圧的で、「なんで私はこんな温度感高めなコミュニケーションをされているんだろう」と、非常にストレスだった。


特に私が覚えているのは、配属されて二週間もしないうちに
「君はめんどくさい」
と上司や先輩たちに言われたことだった。
細かい文脈は覚えていないが、そう言われて
「そういう発言が、人のやる気を削ぐかもしれない、という発想にこの人たちは至らないんだろうか」
「よく知りもしない人間に対して容易に評価を下すことは、人材サービスを提供する会社のやることなんだろうか」
と思ったのをよく覚えている。


私が「全部一人でやろう。誰も頼らない」となるまでそんなに時間はかからず、数字はあげながらも、毎日嫌味を言われない程度にしか残業はせず、20時にはさっさと帰っていた(こんな中でも部署全体の案件を取りまとめて成約率を20%上げたんだから、自分で当時の自分を褒めてやりたいし、1社目の人は本当に仕事をしてなかった)。


業務時間以外では、ほぼ社内の誰とも関わらなかった。
(唯一私をしっかり面倒見てくれる先輩はいたが、ご転職されたため、その人との関わりも半年程度で終わってしまった)


「いつか辞めてやる」と毎日思っていた。でもその具体的な「いつか」は自分ではわからなかった。こんな100人規模の会社で、たいした成果も出さず、大したソリューションも提供していないうちは転職先が見つからないと思っていた。
(実際そんなことはなく、若いうちは転職しやすいので、若い皆様におかれましては、合わない会社に行ってしまったらさっさと転職しましょう)

 


とはいえ、そんな中でも顧客には恵まれていた。
私はその時、派遣サービスの営業をやっていて、スタッフとクライアントの両方をフォローしていたのだが、
「新しく入る案件の給与についてですが、私のスキルは貴方が一番わかってくれているので、貴方が私の給与を決めてください」
と言ってもらったり、クライアントから
「うちの求人は、貴方ならなんとかしてくれると思ってるんです」
と、言ってもらえるようなクオリティの仕事はしていた。
(余談だが、その会社を辞めた後にそのお客さんと飲んだ際に、
「貴方がいなくなって思いましたが、僕たちは会社ではなく、貴方に仕事を発注していたんです」
と言われた時は、営業としてこれ以上の評価は無い、と思った)


しかし、私一人ががんばって提供できるものはたかが知れており、顧客の期待を越えられない状況は、わりとすぐにきた。
1社目は「会社全体でクライアントを支援する」という発想はなく、またそういう文化を作ろうにも、前述の通り私は1社目の人々と良好な人間関係は作れておらず、そこで人間関係を作り直そう、という度胸も、その時の私にはなかった。


私は本当にお客さんが好きだった。営業として私を育ててくれたのは、1社目ではなくお客さんといっても過言ではない。お客さんと関わること、お客さんから評価されることが、仕事における私の精神的な支えになっていた。
そのお客さんに、今以上のことはもう何もしてあげられない、という事実がいちばんきつかった。


そんな時期に、お客さんからこんなことを言われた。 


「君にはもっと高みを見てほしい。今の仕事は、君の持ち味が全然発揮されないと思う。事業をきちんと持っている会社に行って、事業を作る側になる事を心底お勧めする」

『そういう風に言ってもらえるくらいにはビジネスマンとして価値のある人間になったのかな』と思い、転職をしてみようと思ったのだった。


紆余曲折あって、私は転職活動を本格化し、沢山の会社に面接に行くようになった。
そして前職に出会ったのだが、そこでの面接の時間は今でも忘れられないものだったので、(すこし前段が長くなったが)書いてみることにする。

 
前職、一次面接

前職は、数千人規模の会社だった。
当時の転職活動では、Web業界に行くつもりだった。実際面接はそういう会社が多く、わりと順調に選考が進んでいたが、転職エージェントから「硬そうに見えるけど、相当自由な社風の会社ですよ」と言われていたのを、ふと求人票を見て思い出し、気まぐれで応募したのだった。

 

1回目の面接は、100人部署の統括部長の人だった。
「統括部長というのだから、相当偉い人なんだろう。なんかソレっぽく対応しないといけないのかな」と、部屋に通された後は結構気が重かった。

  

蒸し暑さが残る秋の入り口だった。まだクールビズが適用されている期間で、ノージャケット、ノーネクタイ、しかも、ワイシャツの第一ボタンが開いている。髪は後ろになでつけてあるオールバックで、その人は面接の部屋に入ってきた。ひと目見て思った。

 

 


「この人、怪しい。。。!」

 

 


完全に詐欺師の見た目だった。

 
統括部長は席を勧めてくれて、「僕、この事業部の統括部長やってます。よろしく。今日はあなたの話をいろいろ聞きたいですね」と自己紹介をした。まるでお茶飲み友達のような口調で面食らってしまったので、私はきっとその時変な顔をしていたと思う。


された質問は一般的なもので「今ってなんで転職活動してるんですか?」「仕事を通して実現したい世界観はありますか?」「今までの仕事で、貴方の中での成功体験ってありますか?」など、いわゆる面接の常套句ばかりだったのだが、なぜかその人が言うと違う言葉に感じられた。


彼は私の話をとても真剣に聴いていた。私が話せば深くうなずき、
「そうなんだ」
「それで、貴方はその時どう思ったの?」
と、私の話を絶妙に促すのだった。
彼の作り出す会話の雰囲気は、ふわふわと奇妙に居心地良く、私は10分くらいはずっと一人で喋っていたとおもう。


ひとしきり私の話を聞き終えた後、彼は「いいね、僕、あなたのこと人としてとても好きだと思いました。一緒に働きたいので、役員に会ってもらいます」と言い、なぜそう思ったのかの理由を、事業の状況から、その人のビジョン、社会的に課題だと感じてること、だからこの事業にどんな意味があると、自分の中でおもっているのかなどを絡めて話してくれた。

 
純粋に状況が面白かった。考える方向は違ったが、自分と似たような熱量の人が世の中にいて、その人に出会って、その人と、初対面なのに、恥ずかしげもなく自分たちの考えを発露して議論している。こんなことあるんだ。キツネにつままれたような感覚だった。
もうそれは面接ではなくなっていて、私は「この会社にはまだ興味は持ててませんが、私は今あなたにとても興味があります」と言っていた。
彼は「そうですか、ありがとう、うれしいですね」と言った。

 


「面接内で合格と言われていたけど本当なのか?」と半信半疑だったが、その日のうちにエージェントから「1次面接通過です」と連絡がきた。
「その統括部長さんが、自分から面接のフィードバックを人事に連絡するなんて、今までに無いことなんですよ!」と言うようなことをいわれて、くすぐったかったのを覚えている。

 

 
役員面接

その会社の役員面接は、端的に言ってやばかった。

 

先日と同じような人が出て来ると思っていた。見た目は怪しいけど、楽しい雰囲気で話せると思っていたのだったが、実際に来たのは全く別の状況だった。

 
ゴツくて、でかくて、大股で歩いて、入ってくる前からどすんどすんと足音が聞こえて、ドアもものすごい勢いで開け、ちょっとハゲており、色黒で、木製の筒に低い音が響くような声で挨拶をする人が面接の部屋に入ってきた。ちょうどラグビー選手が更衣室に入ってくるのに似ていた。

 


「役員やってます。すいませんね、海外出張で前の面接から間があいちゃって。今日はよろしく」

 


目もぎょろっとしており、ひと目て私は思った。

 


「ヤ◎ザが来た。。。!!!」

 

 

この会社はなんなんだ??詐欺師みたいな見た目の人が統括部長で、ヤ◎ザみたいな人が役員なのか??この会社、ますます怪しい、これは変な会社だ、本当に数千人規模の会社なのか???

 
そんな私の混乱をよそに、その役員は自己紹介を始め、

 
「僕、前の人の評価とかきかないんで。僕は僕自身で貴方のこと判断します。なので、改めて自己紹介からお願いします」

 
と私に言った。
あとから思えば「レジュメ読んでません、面接引き継ぎうけてません」ということなのだが、私な言葉のままのとおり受け取り、プレッシャーが強い....と思いながら自分の転職の経緯を話し始めた。

 


その人は、前の人とは別の、でも同じくらいの熱量の真剣さで私の話をきいてくれた。

  

私の目をまっすぐ見て、あまりにも真剣に聞くので、私は胸がいっぱいになって、おいおい泣きはじめてしまった。

 

 話しているうちに、お客さんから貰ってきた、思いもかけなかった嬉しい評価も、いろんなことが叶わなかった悔しさも、全部が頭と心を行き来して、ぐちゃぐちゃになってよくわからなくなってしまったのだった。

 
彼は話を聞いた後、しばらくして水を取りに行き、「ちょっとこれ飲んで落ち着こうか」と言った。正直内心動揺していたと思われる...ので、申し訳ないのだが、ひとしきり落ち着いてきた頃に彼が言った言葉はこんなものだった。

 


「たぶん、君は一緒に働く人に恵まれてこなかったんだと思う。30歳越えて結果が出せなければ、それはその人の責任だけど、君ぐらいの年齢の人が結果を出せない場合、それはマネジメント側の責任だから」

 


なんでそんなことを言われたのかその時は分からなかったし、正直今でもわからない。

 

でも、それはその時一番私が誰かに言ってほしい言葉だった。

 

 

 

自分が求める言葉を言ってくれる大人たち

じつは、そんなことを言ってくれた会社はここだけではなかった。某ベンチャーの社長とその部下の方も同じことを言ってくれた。

 

 こちらの会社は今はもう1000人くらいの会社になっているが、私が面接に行った時は、まだ100人程度だったように思う。

じつは例の社長と、ひとかたならぬ縁がある企業だったので、転職活動で応募したのは後半だった。会社自体に興味はあったが、「あのこと、話さなきゃいけないんだろうなあ」という気の重さもあったし、じつはこちらの社長さんが「うちで面倒みようか?」と申し出てくれているのをいったん保留にしていたからだ。社長さん、本当にすみません....。

 

 書類はあっさり通過し、1次面接で出てきたのは、某社のいる業界における、リーディングカンパニーで新規事業の立ち上げをやってきた方2名だった。
一人はカタい感じだったが、もう一人の方はニコニコしながら話をきいてくれて、
私は思ったこと、思ってきたことを、気兼ねなく話すことができた。仮にこの人をニコニコさんとする。

 


ニコニコさんは私を(何でかはわからないが)非常に評価してくれて、かつその理由が自分が努力してきた部分、ずっと評価してほしいと思っていた部分だったので、「こういう人たちと働くのは、すごく気持ちが良いだろうなあ」と感じられた。そこから社長さんに会うまでにまた面接があったのだが、それはもう私のことをつなぎとめておくための場だった。

 

社長面接に行った。
私が例の会社の、離散したメンバーだったということはすでにニコニコさんから聞き及んでいたらしく、社長さんは形式的な面接の質問をした後に、
「なんですぐ応募してこなかったわけ?っていうかなんでエージェント経由で応募してきてるわけ?」と言っていた。見た感じ結構怒っていた...(エージェント経由で決定したらお金を払わなきゃいけないのでそりゃそうなのだけど)
「あ、すいません」としか言えず、逆に、会ったこともない私のことを気にかけてくれていたのかと申し訳なく思った。

 

社長さんには、詐欺師とヤ◎ザに話した内容とほぼ同じようなことを喋った。すると、この社長さんも
「君くらいの年齢を採用することは、とても責任が重いことだ。育てて結果を出させる義務があるから」
と言っていた。

 

「だから、君の採用は慎重に検討する」と彼は言って、それで面接は終了した。
ちなみに言ってる内容は納得感があったし、言葉にはとても思いやりを感じたのだが、喋ってる態度にはとても威圧感があったので、そのギャップに私は面食らっていた。なので、彼と話している間、やっぱり私は変な顔をしていたと思う。

 

 

 社長面接の後、ニコニコさん+αが面接部屋に入ってきた。社長のフォローと私の感触を聞きたいと思ってるんだろうことはわかったので、率直に「変な社長さんだと思いましたけど、私は好きです」というようなことを言った。

 

 そのうち雑談になり、ふと自分がなぜ転職をするのか、おさらいするような流れになった。1社目をなぜ辞めたのか、辞めてどうしたかったのか。

いろいろ小難しいことを考えて、小難しいことを言ってきた転職活動だったが、結局、1社目で、自分の出したかった結果は全然出せなかったし、その力量がないことが悔しかったし、そういう気持ちが周囲に理解されないことが悔しかったし、理解させることができない自分が悔しかった。全部一からやりなおしたい、それが場所を変えようと思った理由だった。

 

 そんなことをぽつぽつと喋っていたら、やっぱりまたいろんなものが頭と心を行き来して、ぐちゃぐちゃになって泣いてしまった。

 

すると、ニコニコさんが
「いいじゃん」
と口を開いた。

 


「『悔しい』と泣けるくらい仕事してる、そのことが素晴らしいんだよ」


誰かの求めている言葉を言うこと


不思議な転職活動だった。苦しかったけど、「この世には私の言ってほしい言葉を言ってくれる人がいるのか...しかも複数」ということに実感がなかった。

ヤ◎ザ役員の会社とニコニコさんの会社、両方から内定が出た場合を考えた時、それもまた苦しくてしょうがなかった。どっちの会社も捨てがたかった。
いや、気持ちはちょっぴりニコニコさんの会社のほうに傾いていたかもしれない。数千人の会社で、社内調整なり、出世なり、政治なり、うまくやっていけるか自信がなかった。

 


でも、どっちでも安心して働けることは確かだった。「若手が結果を出せないのは、経営者の責任」と、当の本人たちが言ってくれるのだから、わたしはきっとどっちに入社しても、自由にやっていいのだと思えた。世の中にいい大人はいた。自分が小さい世界で、右往左往していたんだな、ということを感じるのにそこまで時間はかからなかった。

 

 

こういう風に書いてみると、宗教に入信する人の状況にかなり近かったように見える。当時もそんなことはぼんやり思っていたが、仮に彼らの態度が若い労働力を採用するための手段だったとしても、それで構わないと思っていた。最後まで騙しきって、夢を見せてくれれば、それは私にとっては現実とイコールだ、と。少なくとも、私は彼らから「最後までお前に夢を見せてやる」という覚悟は感じていた。

 


数日後、ニコニコさんの会社からはお見送りの連絡がきた。若手はもう採用しきってしまったとのことだった。社長さんがあの時、『何でもっと早く応募しなかったのか』って怒っていた理由もわかったし、無理して私を採用しない姿勢に好感がもてた。

 

同時並行で、ヤ◎ザ役員の会社とは、統括部長+彼の部下とで飲んでもらうことになっていた。内定受諾をしてないのに快く快諾してくれたのは今でも感謝してるし、統括部長がとても目をかけてる女性の部下3人を連れてきてくれた心遣いもありがたかった。飲み会の場で私は「内定を受諾します」と言い、そのまま二次会に流れた。二次会では彼の部下がもっと集まってきて、なんと部下たちがその統括部長をイジっていたし、部長もそれを楽しんでいたので、私はまた面食らってしまった。

 

 

今でも私は営業職を続けている。
人に会う機会はやはり多く、最近は自分より若い人の悩みを聞くことも多くなってきた。
泣いてしまう子だっている。泣けない子もいる。そんな時に、私がもらった言葉たちを、いつでもあげられる大人でいたい。夢を見せる立場になって、あの時の大人たちが、どれだけ私の前で親身に必死になってカッコつけていてくれていたか....そのことを想像すると、何とも言えない柔らかな気持ちになって、いつもクスっと笑ってしまう。